読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

サンプリングという技術について

ここでサンプリングという技術について説明しておきます。

 

(※)サンプリングとは主にサンプラーという機材(あるいはパソコンのソフト)を使ってさまざまな音を取り込み、それを鍵盤やパッド(ボタンみたいなもの)を押すことで鳴らせるようにしたものです。

 

「それがどうした?」という感じで分かりにくいのでもう少し説明しましょう。

ピアノの白い鍵盤を押せばそれぞれ押した鍵盤によって「ド」や「レ」や「ミ」の音が鳴ります。

俺の声を録音したものをサンプラーに取り込み鍵盤を押せば俺の声が鳴ります。私の「ド」や「レ」や「ミ」といった声をサンプラーに取り込み、複数ある鍵盤にそれぞれ割り当てれば、俺の声をピアノのような楽器にして演奏することができるのです。

つまり、俺の声で例えばドビュッシーピアノ曲「月の光」を演奏することもできるようになるし、あるいはまったく新しい曲を作ることも可能になるのです。

あくまで例えですが、ヤバさが伝わったでしょうか。

サンプリングという技術とは(※)で説明されているだけのものですが、その技術の使い方、アイデア次第でいろんなことができるのです。

 

サンプリングという技術とヒップホップには密接な関係があります。

ヒップホップのプロデューサーたちは、最初サンプラーをドラムマシーンとして使っていました。ドラムというのはよく聞く楽器ですが、詳しくは知らない人も多いと思うので説明しましょう。あれは大太鼓(バスドラム)、小太鼓(スネア)、ハイハット(二枚重なったシンバル)などさまざまな打楽器がセットになっているのです。

そしてドラマーは一人でいろんな打楽器を叩くことでリズムを作っています。ただのタイコ役に見えてけっこう複雑なことをやっているのです。

そのドラムセットをコンパクトな機材に置き換えたのがドラムマシーンです。ドラマーは全身で叩きますが、これは指で叩けます。

つまり、サンプラーに大太鼓、小太鼓、シンバル、などドラムセットのそれぞれの打楽器を取り込んでおけば、鍵盤やパッドを押すことでドラマーとほとんど同じことができるのです。もちろん生のドラムの音の複雑さには敵わないから、ドラムマシーンが登場したからといってドラマーがお役御免になることはありえませんでした。レコードが売れてもライブがなくならないのと同じです。

さて、そんな風にサンプラーはドラムマシーンとして使われていました。そうやってヒップホップのプロデューサーたちは”トラック”を作っていたのです。

 

(トラックというのは、ヒップホップミュージック以外の様々な音楽ジャンルでも使われる用語です。しかし、あえてざっくり言うと、ラップの後ろで繰り返し流れてる音楽のことを言います。

謡曲をイメージしてください。だいたいはアイドルが前で歌って、その後ろでバンドが演奏しています。アイドルをラッパーとすれば、トラックはバンドです。)

 

そしてある時ヒップホップのプロデューサーたちは気付きます。

 

「単なる打楽器の音色だけではなく、レコードの一部をまるまるサンプリングしたら、それをループさせることでトラックが作れるのではないか」

 

「とんでもないことを考えるなぁ」と思うかもしれません。他人の演奏をまるまる自分の音楽に引用するなんて、それじゃまるで泥棒じゃないか。

 

(実はサンプリングが登場する前から、ヒップホップのアーティストたちはそれに近いことをやっていました。二台のターンテーブルと二枚の同じレコード使った「ブレイクビーツ」と呼ばれる技なのですが、それについて詳しくはここでは述べません)

 

サンプリングという技術のこのような使い方については、さまざまな意見が今もありますし、実際に多くのヒップホップのアーティストが訴えられたりしています。

 

**************************************

 

ここから先はごく個人的な話です。

 

私がサンプリングに興味を持ったきっかけは、休日に何気なく行った楽器屋で、アニメの女の子の声がサンプリングされたサンプラーを触ったことがきっかけでした。いわゆる萌え系アニメの女の子の声だったのですが、それが音楽として使用できるという可能性が面白かった。

およそあらゆる音を組み合わせて音楽が作れる。自分の持ってるCDレコードはさることながら、アニメの音声、はたまた環境音まで。その音楽に対する”冒涜的”とも言える発想を可能にしたサンプリングという技術。音楽史のスキャンダル。

私は最近までサンプリングは、そういうパロディのようなものだと受け取っていました。

もちろん、そういう側面があるという考えは今でも変わっていませんが、それだけではないということに気づいたのです。

例えば、1970年代のファンクミュージックだけをサンプリングして作った音楽はどんなものになるか?

それは1970年代のファンク特有のノリを含んだ音楽になるのではないかと思います。

既存のあのノリが欲しい、あるいはあのサウンドが欲しい、それを可能にするのがサンプリングということに気づいたのです。

それは多分ヒップホップのアーティストたちが本来やっていたことで今さらそれに気づきました。

 

参考文献:「文科系のためのヒップホップ入門」長谷川町蔵・大和田俊之