スカスカコンピの宣伝

massatsu.bandcamp.com

 

このたび抹殺レコーズからスカスカコンピが出ました。「音の隙間や空間を生かしたスカスカな音楽を集めたコンピレーション」というのがコンセプトとなります。私も参加しています。金額はいつもと同じで自分で決めることができます。0と入力すればフリーでダウンロードでき50万円でもOKです。

 

スカスカな音楽って良いんですよ。スカスカな音楽と聞いてどんな音楽をイメージしますか?私のイメージは「ダンディな憎いあンちくしょう」です。でもこれは私の個人的な見解であり、このコンピには様々な人が自分のスカスカを追求しています。今私が語った以外のスカスカがここにはたくさんあります。これから一曲ずつレビューを書いていこうと思います。

 

************************************

 

「hand」 Bt Maly

ソフトでシステマティック。かなり洗練されたスカスカです。音楽にタン・タン・タンと流れる拍の上に乗せられた区切られた音が、始まり、終わり、重なりを繰り返します。短いイベントが割り込み、ある時は盛り上がり、落ち着き、音楽を構成していきます。非常にDTM的な、編集された音楽です。アフリカの朝の鹿、東京の電車の運行、熟練したパン屋さんの仕事、いろんなイメージが沸きます。まるで地球上のさまざまな営みを映しているかのような音楽です。

 

「busy signal」 wtnb

とても優しい悲しみがあります。この孤独はいつからあるのでしょうか。他人なんだと思います。誰にも癒せないのかもしれない。丸く温かい電子的な音。音楽として聴こうと思わなければ無視してしまう日常の喧騒。結論はありません。ただ続けることだけ決めているのでしょうか。たまに休んで、また始める。なにかを確認してるような、自分だけに聞かせる呟き。息をしてるので、まだ生きてるのだと思います。

 

「Switched-on colors」 Ida66

きちんと練習した讃美歌みたいです。押しつけがましい楽しさはなく、自分の持ち分から逸脱することもなく、それぞれがそれぞれを尊重し合ってるような音楽です。息を長く吐かず、てきぱきと家の掃除をするように、たとえがっかりすることがあっても、その時はその時だというように、こまごまと動いて新しい何かを探しているような感じです。このお話はここでおしまい!つづきはまた今度!

 

「soulsoup」 loveles

まろやかに溶けるスープ。あんまり詳しくないですがボサノバ(?)です。スカスカとラテンは相性がいいですね。ラテンのパーカッションはスカスカサウンドです。音の質感がとても良いです。アンニュイで、浸るという感じの音楽です。この曲はイヤホンで聴くよりは、スピーカーで流す方がいいかもしれません。例えばこの曲が16時のラジオから流れてきたら、心がスープのように温められ穏やかな夕べを過ごすことができるでしょう。

 

「Toy」 MSS Sound System

メルヘンな曲です。メルヘンというと自分は迷子をイメージします。不思議なものへの好奇心。この不思議な世界について知らないことばかりの状態。赤ん坊。赤ん坊は自分が笑う理由も知らずに笑います。赤ん坊の見えてる世界がどんなものなのか、赤ん坊だった頃を忘れてしまった今では想像するしかありません。もしかしたら天井に天使がいるのかもしれない。あるいはお母さんが見たら驚きすくみあがってしまうような悪魔に向かって笑ってるのかもしれない。しかし、優しく見守るような歌のこの曲、いるのはきっと天使の方でしょう。

 

殺人の追憶」 solidsmoke

 透明感のある曲です。スカスカコンピには透明感のある曲が多いですね。しかし、透明感も十人十色。静謐な森の中の沼に眠る殺された女。この曲の透明感は何かというと、死の透明感です。空白を孕んだ歌。まるで回線状態の悪い電話のようです。でもそれはとても大切な話で、伝わるまでずっとコールし続ける執念深さがあります。聞こえているでしょうか。自分がなにをされたのかも分からない。どうしてこの沼の底にいるのかも分からない。殺された女が「どうして?」「どうして?」「どうして?」と、ずっと聞いています。可哀い女ですね。

 

「なにもないを置いておきました。ご自由にお取りください。」 ゆらぎと破片

ポルターガイストみたいな曲です。だれもいない部屋で物が動いたりするあれです。理屈に合いません。物を動かす原因があるから物は動くのです。でも何もない。なんだか人を食った話ではありませんか。動く意味が分からない。意味なんてないのかもしれない。じゃあなんで動くんだ?なんで物を動かしたんだ?そもそもこの質問は誰に向かって言ってるのでしょうか。何もないのに変な気持ちです。

 

「ギミジゴク」 裸時 feat.鉛音ピネ

この曲において私は聴く姿勢を変える必要が出てきたのです。これまでの7曲とは違う姿勢で聴かなければならない。頭をフル稼働して起こった現象を解釈する。でもこの曲は一番レビューが書きやすいだろうと思いました。おそらく言葉を考える脳の部分と競合しないのでしょう。非常に音楽的であるため、言語野と重なり合わないのです。この曲は抽象的ではないのかもしれない。超現象的、というか、抽象ではなく、現象そのもののような気がします。

 

「透(き)間」 towelone.

振る舞い。タマネギを細かく刻んで炒めるように、情報が小さく分けられているように感じます。水の中の魚の群れのような、雲の中の電流のような、個々の小さな要素が全体としてまとまり揺らいでいるような感じです。そのような振る舞いが起こる理由は謎であり人間が意識して起こせるわけではないと思わないので、これはかなり感覚的な音楽だと思われます。しかしそれは映画のフィルムの化学的特性を利用したようなクールなものです。

 

「ブラン・ニュー・キッス」 平田義久 feat. 初音ミク

めっちゃアダルトなファンク。都会の夜のイメージがひしひしと伝わります。それも繁華街のゴミゴミした感じではなく、カクテルに溶ける淡い光のようなエレガントなものです。そしてセクシー。この会社の連中は、朝オフィスに来て夕方まで仕事をした後、それぞれのハードでスリリングな人生へと戻っていく。スーツを着たブラックパンサーの夜の顔。腰に響く。楽しい人生。

 

「延命」 鈴木O

別に踊りたくもないのにわざわざ踊ってみせる踊念仏。生活の途中で頭がうわーってなったりするけど、自分は絶対に終われないことは分かってる。人生でいつかあった終わりのポイントを逃したのか、いや果たしてそんなものあったのかしらん。自分はどこからか延命が始まった。嫌で嫌で仕方ないけど、誰にも理解してほしくない。安い共感でこの行き詰った感覚を消費したくない。日常は限りなく透明に近いグレー。だけどこんなこと、真剣に考えるほどでもないんでしょうね。

 

「ぱさぱさしていておいしくない」 kazunocobit

破綻。小さな物語です。物語は進んでいき、終わる。何かが破綻したような寂しさがあります。派手な破たんではなく、然るべき時間が過ぎ、終わるべくして終わったようなものの気がします。もしかしたらそれはワクワクした気持ちかもしれません。美味しそうな果実を拾ったけど、食べてみるとそうでもなかった。例えばジャングルの中でオラウータンがそんな気持ちになることだってあるだろうと思います。この果実はぱさぱさして美味しくない。

 

「タダでマンションに住みたい」 キヅミタ

私の曲です。ダンディな憎いあンちくしょうって感じの曲です。二番の「アハハ(ドーン)→ウホウホ」で頭がパキーンなってもらえたら成功です。ダンディな憎いあンちくしょうって自分の美意識で服を着くずしたりしてると思うんですけど、この曲から滲み出る「ちょっとよれよれな服着てる俺ってカッコいい感」を感じてもらえたら幸いです。

 

「砂上の楼閣」 rjnk

ヒップホップのラップですが、不思議なサウンドです。ベースが不思議。ギュッと詰まった味ですがべ―キングパウダーを混ぜて焼いたように膨らんでいます。ご機嫌で挑発的な曲です。自動筆記的な自由さも感じられます。自動筆記は自由というより、自由への手段です。この曲は「自由への試み」のように感じられます。楽しさ志向というか、象でもシマウマでも楽しければ分け隔てなく手を繋ぐようなそういう感じです。

 

「疎影横斜水清浅」 平田義久

タイトルを調べてみれば中国の古い詩人の作から取られているようです。wikiには梅を詠んだ句だと書いてありました。それを知るまでは郷愁を感じる曲だなぁという感想だったのですが、その郷愁の意味が分かってハッとした次第です。このサウンド編成と中国の詩は意外な取り合わせだったのですが、改めて聞いてみればそうかそうかと納得。知って聞いてみると随所に見えてくる景色があります。これ以上の解説は不要でしょう。ぜひ聴いてみてください。

 

「千の雲」 マグロジュース feat.雪歌ユフ

終わりの曲。空に喪失感を投影して、取り返しのつかない人を悔やむ。きっと別れてしまった人は最後まで優しかったのでしょう。別れる瞬間でさえ優しかったのだと思います。でも終わってしまった。自分が本当に愛していたことに気付いてももう遅い。別れるとき、”私”は「いかないで」という言葉を声に出しては言えなかったのだと思います。”私”から離れていく背中に「いかないで」と伝えることができなかった。そして”私”は初めて他人にも心があることに気付いたのです。簡単には想いが伝わらない、容易に理解できない、”私”とは別の主体の存在に気付いたのです。

 

***************************************

 

レビューは以上です。ダウンロードよろしくな!